伝統芸術が中国切手に!「京劇のくまどり切手」の図案詳細と市場価値を徹底解説
数ある中国切手の中でも、ひときわコレクターの心を掴んで離さないのが、1980年発行の「京劇のくまどり切手」です。
中国の伝統芸能である京劇。役者の顔に施される独特の化粧「くまどり」は、その役柄の性格や運命を物語り、舞台にさらなる深みを与えます。激動の中国現代史を背景に生まれた「京劇のくまどり切手」は、まさに京劇の伝統を封じ込めた逸品といえるでしょう。
当記事では、その誕生秘話から発行枚数、そして切手買取における市場価値まで、余すところなく解説いたします。コレクター必見の情報が満載ですので、ぜひ最後までご一読ください。
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目次
「京劇のくまどり切手」とは?
中国の伝統芸能である京劇の独特な化粧法「臉譜(れんぷ)」。
日本では「くまどり(隈取)」とも呼ばれる、この化粧法を題材にした特殊切手が、1980年に中華人民共和国で発行されました。
臉譜は、役柄の性格や特徴を色や模様で表現する、京劇ならではの芸術的な技法です。たとえば、赤は忠誠心や勇気を。黒は率直さや力強さを。白は狡猾さや悪意を象徴するなど、その色彩豊かな表現は、観る者を京劇の世界へと引き込みます。
【補足】臉譜は歌舞伎の化粧法「くまどり」に近いことから、日本国内ではこの切手を「京劇のくまどり」と表記するケースが多くあります(※)。
※当記事では便宜を図り、臉譜を「くまどり」と表記します
失われかけた切手:文化大革命の影と復興への希望
この切手セットの構想は、実は1960年代初頭にまで遡ります。
中国の切手デザイナー「劉碩仁」によるデザインが1963年に完成し、翌1964年の発行が予定されていました。
しかし、文化大革命の嵐が吹き荒れる中、伝統的な京劇は弾圧の対象に。切手も発行直前で廃棄、原稿や資料までもが破壊されてしまったのです。
文化大革命終結後の1970年代末になり、ようやくこの企画は再始動します。
劉碩仁氏は残されたわずかな資料をもとに、失われた図案を再創作。困難を乗り越え、1980年1月25日に「京劇のくまどり切手」はついに発行されたのです。
世界へ発信する中国の美:芸術性と教育的価値を兼ね備えたコレクション
「京劇のくまどり切手」は、中国の対外開放政策とも歩調を合わせ、世界に向けて中国文化の魅力を発信する役割も担いました。
芸術作品としての価値だけでなく、京劇や臉譜への理解を深める教育的価値も持ち合わせています。さらに、中国の伝統文化の復興と新しい時代への希望を体現する、コレクター垂涎のアイテムといえるでしょう。
この切手シリーズの発行は、京劇の臉譜という独特の芸術を通して、中国文化の魅力を世界に発信することに成功したのです。
「京劇のくまどり切手」のデザインと発行枚数
中国切手「京劇のくまどり」は全8種類の切手で構成され、それぞれが京劇に登場する有名な英雄たちの「くまどり」を鮮やかに描いています。
切手の図案には、孟良・李逵・黄蓋・孫悟空・魯智深・廉頗・張飛・竇爾敦という、個性豊かな8人のキャラクターが登場します。
京劇のくまどりは、単なる化粧ではありません。色や模様の一つひとつに深い意味があり、登場人物の性格・社会的地位・善悪など、観客に瞬時に伝える役割を果たしているのです。
今回の切手で使われているメインカラーには、次のような意味があります。
☑ 赤色:忠誠・勇気・義理・誠実
☑ 白色:裏切り・狡猾さ・悪意・卑怯
☑ 黒色:率直・短期・正義感・力強さ
☑ 青色:短期・気性の荒さ
この切手セットでは、くまどりの複雑な模様や鮮やかな色彩が細密に再現されています。
以下に、全8種のデザインテーマと発行枚数をご紹介します。
✔ 「洪洋洞」の孟良(額面4分、発行枚数1,000万枚)
✔ 「黒旋風」の李逵(額面4分、発行枚数1,000万枚)
✔ 「群英会」の黄蓋(額面8分、発行枚数1,500万枚)
✔ 「大鬧天宮」の孫悟空(額面8分、発行枚数1,500万枚)
✔ 「野猪林」の魯智深(額面10分、発行枚数500万枚)
✔ 「将相和」の廉頗(額面20分、発行枚数500万枚)
✔ 「芦花蕩」の張飛(額面60分、発行枚数250万枚)
✔ 「盗御馬」の竇爾敦(額面70分、発行枚数250万枚)
それぞれの切手に、まるで京劇の名場面を切り取ったかのようなデザインが施されているのが特徴です。
「洪洋洞」の孟良
「洪洋洞の孟良」には、京劇に登場する「孟良」のくまどりが描かれています。孟良は、勇敢で忠義に厚い人物で、正義感が強く、困難な状況にも屈しない強さを持っています。
このくまどりは、額に逆さに描かれた赤いひょうたんが特徴で、これは孟良が「火ひょうたん」という武器を使うことを象徴したものです。
目の周りには黒い模様、口の周りには赤いひげが描かれ、武将の兜を被った姿が特徴だといえるでしょう。
孟良のキャラクターを視覚的に表現したくまどりで、彼の忠誠・勇気・知恵。そして、特別な力を一目で理解できるようデザインされています。
この芸術的な表現方法は、観客が登場人物の性格や役割を即座に把握できるよう工夫された、京劇の重要な要素となっています。
「黒旋風」の李逵
こちらの図案は、「黒旋風李逵」に登場する「李逵(りき)」のくまどりが描かれています。異名「黒旋風」を体現するかのように、全体に濃い黒色が使われているのが特徴です。
李逵は、正直で素朴な性格でありながら、短気で粗野な一面も持つキャラクターです。目の周りは紫褐色で縁取られ、激しい気性を象徴しています。口元には黒いひげを描き、男性的な強さも強調しているのです。
全体的に荒々しく見える面相は、李逵の勇猛さと正義感。そして、時に制御しきれない激情を見事に表現しています。
「群英会」の黄蓋
「群英会の黄蓋」には、三国時代の忠臣である「黄蓋(こうがい)」のくまどりが描かれています。
彼のくまどりは「赤六分顔」と呼ばれ、老いた武将の威厳を表現したものです。顔の下半分が赤く、上半分が白く塗られ、年齢と知恵を表現しています。眉は白く描かれ、年齢と経験を象徴。
黄蓋の老練さと忠義、そして戦略家としての知恵を表現したデザインです。
「大鬧天宮」の孫悟空
「大鬧天宮の孫悟空」切手には、神通力を持つ石猿「孫悟空」のくまどりが描かれています。
孫悟空のくまどりは、顔に心の模様が描かれており、ユニークで芸術的な誇張を加えられたデザインです。また、とがった口と反り上がった鼻孔、頭には2本の羽が刺さった「紫金冠」を被っています。
このくまどりからは、孫悟空の活発で茶目っ気のある性格と、反抗的でありながらも機知に富んだ姿が感じられますね。
「野猪林」の魯智深
こちらの切手には、京劇「野猪林」の「魯智深(ろちしん)」が描かれています。
魯智深は、水滸伝の登場人物として知られています。
魯智深は勇猛な僧侶であることから、白を基調としたくまどりで、黒くて太い眉や口元の薄く短い口ひげが特徴です。
胸をはだけ、首には仏珠をかけ、豪放な性格を反映しています。このくまどりは、彼の楽観的で広い心、そして正義感の強さを象徴したものです。
「将相和」の廉頗
「将相和の廉頗」には、戦国時代の名将「廉頗(れんぱ)」のくまどりが描かれています。
眉間にシワがあり、顔の色は白の中に淡いピンクが差した色合い。そして、頭に帽子を被った姿が目を引きます。
廉頗は戦国四大名将の1人で、勇猛果敢で戦術に優れた武将です。数々の戦いで功績を上げ、趙国の防衛に大きく貢献しました。しかし、功績におごり、他人を見下す態度をとることもありました。
有名な逸話をご紹介します。同じく趙国の名宰相である「藺相如(りんしょうじょ)」に対して、何度も侮辱的な態度を取るも、最終的には藺相如の寛大な態度に感服。そして、自らの過ちを認めて謝罪した、というエピソードも残されています。
廉頗は頑固さと同時に、過ちを正す勇気も持つ人物として語られているのです。
「芦花蕩」の張飛
「芦花蕩の張飛」切手に描かれているのは、勇猛で豪快な武将「張飛」のくまどりです。
張飛は、中国の三国時代の武将です。「三国志」や、その物語版である「三国志演義」に登場する、劉備の忠実な義兄弟として知られています。
性格は勇猛果敢で、戦場での武勇は群を抜いています。長槍の使い手として恐れられ、その勇猛さは「虎牢関の戦い」での活躍など、多くの逸話に残されているほどです。
一方で、短気で粗暴な面もあり、部下への扱いが厳しすぎることもありました。
しかし、兄弟への忠誠心は厚く、とくに劉備への忠誠は絶対的なものでした。正義感が強く、直情的な性格ゆえに、時に軽率な行動をとることもありましたが、その勇気と忠誠心は多くの人々に尊敬されています。
この張飛のくまどりは、黒を基調とした「十字門蝴蝶」と呼ばれ、黒い目元と大きく描かれた蝶のような模様の眉が特徴です。
黒い開口ひげと耳が、張飛の陽気で大胆な性格を表現しています。頭には草帽をかぶり、彼の奔放で明るい性格が強調されています。
「盗御馬」の竇爾敦
こちらの図案に描かれているのは、京劇「盗御馬」に登場する「竇爾敦(とうじとん)」のくまどりです。
竇爾敦の性格は粗野で直情的、自信過剰な面があり、時に軽率な行動をとることもあります。正義感が強く、不正を見過ごせない性格であるものの、その正義の実現方法が時として乱暴で、勇気はあるが謀略に欠けると評されることも。
しかし、その率直さと正義感、そして勇気ある行動は、多くの人々に愛される要因にもなっています。
くまどりは眉を黄赤色で勇猛さを象徴し、目は細く鋭い洞察力を表現。鼻や口元のひげは赤い模様で装飾され、激しい気性を示したものです。
▼中国切手「京劇のくまどり」の詳細
・発行日:1980年1月25日
・額面:4分~70分
・切手デザイン:全8種類
・発行枚数:250万枚~1,500万枚
・編号:T45
「京劇のくまどり切手」の買取価値
「京劇のくまどり切手」は、数ある中国切手の中でも、とくにコレクターから熱い視線を浴びるシリーズです。
コレクション性が高い切手ため、高く売れる可能性があるといえるでしょう。
鮮やかな色彩と緻密なデザインが魅力で、中でも「黒旋風の李逵」のデザインは、他の7種と比べて市場価値が高い傾向にあります。
未使用かつ状態の良い切手であれば、さらに高値が期待できます。とくに、未使用の完全なセットともなれば、額面を大きく上回る価格で取引されることも珍しくありません。
一方、破れや色あせなど、状態が悪い切手は残念ながら価値が下がってしまいます。
保管方法には十分注意しましょう。
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まとめ
「京劇のくまどり切手」は、中国が誇る伝統芸能・京劇の独特な美を世界に発信し、その価値を称えるために発行されました。
京劇において「臉譜(れんぷ)」と呼ばれる顔の化粧は、単なる装飾を超え、役柄の性格や物語の背景を視覚的に表現する「重要な役割」を担います。
象徴的で大胆な色彩と模様は、登場人物の忠誠心・勇気・狡猾さ・悪意などを観る者に瞬時に伝えます。
切手の発行は、京劇の豊かな伝統と芸術性を国内外に広く知らしめ、文化遺産としての価値を再認識させるという重要な目的を持っていました。
なぜなら、中国が伝統文化の保護と普及に力を入れていた時代を背景に、古典芸術の魅力を現代に伝えるための取り組みの1つだったからです。
「京劇のくまどり切手」は、政治的な困難を乗り越え、芸術と伝統の価値が再び認められた象徴として、中国の近現代史においても特別な存在感を放っています。