中国切手「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」について|歴史と芸術が融合した切手の希少価値とは?
1952年、新中国の夜明けとともに発行された切手「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」。
シルクロードのオアシス都市、敦煌の「莫高窟」に描かれた壁画は、東西文化が織りなす壮大な歴史絵巻です。その貴重な遺産が切手として蘇り、世界中のコレクターを魅了し続けています。
当記事では、この「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」切手の魅力を余すところなく解説。歴史的背景からデザインの特徴、そして、現代における市場価値まで、初心者にもわかりやすく掘り下げます。
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目次
「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」切手とは?
1952年に発行された「偉大なる祖国第1次切手」は、新中国の記念すべき第一歩を飾る特殊切手です。
その副題が示すように、この切手は世界遺産にも登録されている「敦煌壁画」をテーマに、壮大な歴史と芸術の魅力を凝縮しています。
莫高窟:千年の時を超えて語り継がれる壁画群
中国甘粛省に位置する「莫高窟(ばっこうくつ)」は、シルクロードの交易拠点として栄えた敦煌に築かれた石窟寺院群です。
4世紀から14世紀にかけて、約1000年という長い歳月をかけて、492もの洞窟に壁画が描かれました。その総面積は45,000平方メートル以上、なんとサッカー場約6面分に相当します。
東西文化が交差するこの地で生まれた敦煌壁画は、多様な文化の影響を受けた独自の様式が特徴です。
また、敦煌壁画には、以下の代表的な図像があります。
☑ 飛天:空を舞う天女の姿
☑ 千仏図:無数の小さな仏像を整然と並べた図
☑ 説法図:仏陀が教えを説く場面
☑ 本生図:仏陀の前世の物語を描いた絵
☑ 供養人像:寄進者たちの肖像画
このように、多岐にわたるテーマの壁画が残されているのです。
1987年にはユネスコ世界遺産に登録され、その価値は世界的に認められています。敦煌壁画は、中国美術史のみならず、世界の美術史や文化交流史においても貴重な研究資料であり、人類の宝といえるでしょう。
そして、この「偉大なる祖国第1次切手」は、そのような敦煌壁画の荘厳な美しさを「切手」という小さなキャンバスに見事に再現した、まさに歴史と芸術が融合した逸品なのです。
4つの壁画が彩る当切手の「デザイン」と「魅力」
新中国の船出を祝うかのように発行された、「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」切手。
切手の詳細を一緒に見ていきましょう。
▼中国切手「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」の詳細
・発行日:1952年7月1日
・額面:各800元
・切手デザイン:全4種類
・発行枚数:各1,000万枚
・編号:特3
この切手セットは、敦煌莫高窟に描かれた4つの異なる時代の壁画をモチーフにしています。単色でありながらも、精緻な描写で壁画の美しさを余すところなく伝えているのです。
4種類の切手デザインは、以下のとおりです。
✔ 狩猟(西魏):額面800元、発行枚数1,000万枚
✔ 供養人(北周):額面800元、発行枚数1,000万枚
✔ 飛天(唐):額面800元、発行枚数1,000万枚
✔ 乗虎天人(唐):額面800元、発行枚数1,000万枚
発行枚数は各1,000万枚とされていますが、現在では未使用の状態で見つかることは非常に稀であり、コレクターの間では高値で取引されています。
とくに、4種類が揃った未使用のセット品は、その希少性から非常に価値が高いとされているのです。
続いては、各デザインの魅力と特徴をご紹介します。
狩猟(西魏)
日本の切手カタログでは、「狩猟(北魏)」と表記されることが多いこの切手ですが、実際は「西魏」が正解です。
切手には「魏」の文字が刻まれていますが、正確には西魏時代を指すものと考えられています。
切手に描かれているのは、敦煌莫高窟第285窟の天井に描かれた西魏時代(6世紀中頃)の壁画、「狩猟図」からインスピレーションを得たデザインです。弓を構え、獲物である「ヤク」を追う狩人の勇壮な姿が、躍動感あふれるタッチで描かれています。
狩人の頭には、鳥の羽根で装飾された、「鹖冠(かつかん)」と呼ばれる帽子が輝いています。これは武人の象徴であり、勇敢さを表すものでした。背景には、雄大な草原や山々が簡素ながらも力強く描かれ、当時の狩猟の様子を彷彿とさせます。
平面的な描写でありながらも、狩人の緊迫感や躍動感が伝わってくる、非常に印象的なデザインです。
供養人(北周)
日本の切手カタログでは、「供養人(隋)」と表記されることが多いこの切手ですが、実際は「北周」が正解です。
切手には「隋」の文字が刻まれていますが、これは誤りで、現在では「北周(中国の王朝)」が正しいとされています。
この切手には、莫高窟の壁画に描かれた「供養人」と呼ばれる女性たちが登場します。供養人とは、石窟の修復や維持のために資金を寄進した人々のことです。その功績を称え、自らの姿を壁画に残しました。
切手に描かれているのは、身分の高い貴婦人と、その傍らに控える侍女の姿です。貴婦人は、華やかな衣装を身にまとい、優雅な立ち姿で描かれています。一方、侍女は小柄で控えめな姿勢で、扇を持ちながら貴婦人に従っています。
この2人の対比は、当時の社会における身分制度や女性の立場を反映しているのです。同時に、貴婦人の高貴な美しさ、侍女の献身的な姿が、見る者の心を打つのではないでしょうか。
この切手は、当時の社会階層や女性の役割、そして華麗な服飾文化を垣間見られる貴重な資料です。また、繊細な筆致で描かれた人物たちの表情や仕草からは、敦煌壁画の芸術性の高さが伝わってきます。
飛天(唐)
この切手は、敦煌壁画の中でもとくに人気が高いモチーフである「飛天」を題材にしています。
飛天とは、仏教の世界で天空を舞う天人のことです。「香音神」とも呼ばれ、その美しい姿と音楽で人々を魅了するとされています。
切手に描かれた飛天は、まるで重力から解放されたかのように軽やかに舞い、その姿は見る者を天上の世界へと誘います。長いリボンをまとい、風にたなびく姿は、優雅さと躍動感を兼ね備えているのです。
飛天の「飛ぶ」という動作は、翼ではなく、風に舞うリボンによって表現されています。リボンが空気を切り裂き、天女の体を宙に浮かせる様子が、繊細な筆致で描かれているのが特徴です。
ふくよかで優美な顔立ち、しなやかな曲線を描く体つきは、見る者に安らぎと幸福感を与えます。
その姿は、まさに天空を自由に舞う天女そのものといえるでしょう。
乗虎天人(唐)
日本の切手カタログでは、「竜(唐)」と誤って表記されることが多いこの切手ですが、実際には「乗虎天人」を描いたものです。
敦煌莫高窟第329窟・初唐時代の天井壁画をモチーフにしており、そのダイナミックな構図と色彩が魅力的です。
切手の中央には、白虎にまたがる天人が描かれています。天人は軽やかな身のこなしで、まるで天空を自由に遊泳しているかのよう。風になびく衣装が、躍動感をさらに際立たせています。
白虎は中国の四神の1つであり、西方の守護神として崇められています。力強い筋肉と、今にも飛びかからんばかりの躍動的なポーズは、見る者に畏敬の念を抱かせるのです。
天人を中心とした構図は、周囲の雲や花々との調和が見事で、静と動、天と地のバランスが絶妙に表現されています。まるで、見る者を神話の世界へと誘うかのような、神秘的な魅力にあふれたデザインです。
「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」切手の市場価値について
「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」切手は、新中国初期に発行された切手の中でも、その歴史的・芸術的価値からコレクターの間で高い人気を誇っています。
各1,000万枚という比較的多い発行枚数にもかかわらず、未使用かつ保存状態の良いものは希少であり、高値で取引される傾向にあります。
とくに、4種類すべてが揃った未使用のセット品は、コレクターにとって垂涎の的といえるでしょう。
さらに、「供養人」のデザインには、「縦ペア中間目打ちもれ」という非常に珍しいエラー切手が存在します。
このエラー切手は、製造過程で目打ちが正常に入らなかったもので、その希少性から非常に高い価値を持っているのです。
もし、お手元に「偉大なる祖国第1次(敦煌壁画)」切手をお持ちでしたら、その価値を最大限に評価してくれる専門業者に見てもらうことをオススメします。思わぬ高値が付くかもしれません。
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まとめ
1952年、中国は激動の時代を乗り越え、新たな国家建設へと歩みを進めていました。社会改革が進む中、文化財保護への意識も高まり、敦煌壁画はその象徴的な存在として再評価されたのです。
敦煌研究院(当時は敦煌芸術研究所)を中心とした保護・研究活動は、新中国においても継続され、「偉大なる祖国第1次」切手の発行は、国家的な文化保護活動の一環として位置づけられます。
この切手は、敦煌壁画の美しさを通じて、中国古代文化の奥深さと宗教の多様性、そして高度な芸術技術を広く伝える役割を果たしました。切手の発行によって、国民の文化的誇りを高め、新たな国家のアイデンティティを確立する一助となったといえるでしょう。
「偉大なる祖国第1次」切手は、単なる切手という枠を超え、過去と現在を結びつける象徴、そして未来へと伝えるべき文化遺産としての価値を秘めています。この小さな1枚の中に、壮大な歴史と芸術、そして新中国の希望が込められているのです。